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冷却塔トラブル改善プロ

九州の水質と冷却塔(クーリングタワー)設備に与える影響

こんにちは、「冷却塔トラブル改善プロ」の杉山です。

現在、九州では台湾の半導体メーカーTSMCの熊本進出で、半導体関連企業の九州進出が相次いでおり、シリコンアイランドの復活などと言われています。今回は、九州の水質と冷却塔(クーリングタワー)設備に与える影響について水問題を説明いたします。

九州へ工場進出をお考えの企業様には、必見の内容です、最後までご拝読いただけますと幸いです。

九州の水質はシリカが多い

九州は火山地帯であり、数万年前に起きた阿蘇山の噴火の影響もあるのか、溶岩に多く含まれるシリカが豊富な土壌であり、地下水や湧き水は、シリカやカルシウムを非常に多く含んだ水質が特徴の地域です。

そのため九州以外の東京、大阪、名古屋などの水質とは、まったく違い不純物(ミネラル成分)がとにかく多い水質です。

特に、水に含まれるシリカの濃度が高く、そのため、新たに九州で工場を建設する際は、シリカに対応した適切な水処理をおこなわないと、設備稼働後にスケール障害が起こりトラブル改善のため計画外の多大な水処理コストが発生し、当初の事業計画から予算が外れてしまうことになります。

そのため、あらかじめ工場建設予定地域の水質を把握し、水処理のコストを含めた事業計画を立てることをお勧めいたします。

冷却塔(クーリングタワー)設備に使用する水

水は採取する場所によって、水質が大きく異なりますので、違いをご説明します。

地下水

地下水を使用するメリットは、水のコストが安いことです。地下水の利用に掛るコストは、水を汲み上げるポンプの電気代です。大量に水を使用する設備ではコストメリットがあります。

一方で、地下水は地下の地層から湧き出ているため、不純物(ミネラル成分=カルシウム・マグネシウム・シリカなど)を多く含んでいます。ミネラル成分を豊富に含んでいる水は、人にとってはおいしい水ですが、工場の設備や機械で使用する水としては、まずい水です。不純物が多い水を、冷却水として使用すると、スケール障害や腐食の原因になります。特に九州は、火山地帯であり不純物がより多く含まれる水質のため、他の地域以上にスケール障害や腐食に気を付けなければなりません。

水道水・工業用水

冷却塔(クーリングタワー)で使用される補給水を水質分析すると、水に含まれる不純物(ミネラル成分)は、水道水、工業用水ともにほぼ同じです。違いは、滅菌処理されているかです。水道水は、飲料用の為、滅菌処理されており塩素が入っています。工業用水は、工場で機械の冷却などで使用さるため、滅菌はされていません。

水道水はきれいでスケール障害も起きにくいと思われがちですが、それは間違いです。水に含まれるカルシウムやマグネシウム、シリカなどの濃度は、工業用水とほとんど変わりません。

九州の水は機械にとって「まずい水」

とくに九州では、水道水の硬度が高く、スケールが生成しやすい地域です。また、シリカの含有量も多く含んでいるため、工場の設備や機械にとってまずい水です。

九州の地域ごと水質分析内容

2023年11月の水質分析の値です。

九州4地区の補給水(水道水・工業用水)の水質は、4地区全てでシリカの含有量が多いことが分かります。この水を過剰に濃縮した状態で使用する場合、シリカ系スケールが生成されます。特に熊本県、大分県は硬度(カルシウム硬度とマグネシウム硬度の合計量)も高いため、カルシウム系スケールも生成しやすい水質です。

スケールの種類

炭酸カルシウム系スケール

一般的に見られるスケールが、冷却水中のカルシウムイオンと炭酸水素イオンが結合して生成された、炭酸カルシウムスケールです。

炭酸カルシウムスケールが生成される条件としては、

  • pHの値が高くアルカリ性の水質
  • 水に溶けている電解質が多く、電気伝導率が高い
  • 水温が高い
  • カルシウム、マグネシウムの硬度分が高い水質
  • 酸消費量(pH4.8)の濃度が高い

などの条件が上げられます。

写真は、炭酸カルシウムが析出したスケールです。

シリカ系スケール

シリカスケールは、カルシウム、マグネシウム、アルミ、亜鉛などと結合して、ケイ酸カルシウムやケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムとして析出します。

シリカはガラスの原料となる物質のため、シリカ系のスケールは非常に硬質です。そのため、化学薬品で溶解しようとしても容易ではありませんので、スケールを生成させない対策が必要です。

写真は、シリカ主体のスケールです。硬質で陶器のような状態です。

スケール生成のメカニズム

まず、冷却水の水温を下げる仕組みをご説明します。

冷却塔(クーリングタワー)は、内部で水をシャワー状に散水し、冷却ファンによって外気を内部へと吸込み、水に風をあてることで「気化熱」と呼ばれる現象により水の水温を下げています。

そうして冷やされた水は、再び設備へと送られ、熱を奪い水温が上がり冷却塔(クーリングタワー)へと戻ってきてます。冷却水は、常に冷えたり温まったりを繰り返しています。

水は蒸発を繰り返しますが、水に含まれたミネラル分(不純物)は、水の中にそのまま残り蓄積されていきます。

これを、水の濃縮と呼びます。

水の濃縮がすすむと、水の中に溶けていたミネラル成分(カルシウム・マグネシウム・シリカなど)の不純物が、飽和状態となりスケール化し固まってきます。さらには、塩分も濃縮によって濃度が高くなるため腐食を引き起こします。

スケール障害にかかるコスト

水処理を怠ったことで、スケール障害により掛かる様々なコストについてご説明します。

熱効率の低下

充填材や密閉式冷却塔(密閉式クーリングタワー)の銅チューブにスケールが付着すると、冷却水が冷えなくなるトラブルが起こります。冷却水が冷えなくなると、冷却対象機器を冷やせなくなり、高温異常で設備が停止すると生産性低下の原因となります。

充填材交換

冷却塔の充填材にスケール付着が酷く、スケールの状態が非常に硬い場合、充填材を交換しなければなりません。充填材は、部品コストや交換費用、産業廃棄物処分など多大なイニシャルコストが掛かります。

冷却塔(クーリングタワー)の充填材清掃

冷却塔充填材に付着したスケールの状態によっては、高圧洗浄機で洗い落せる場合があります。慣れない方が安易に充填材の清掃を行うと、充填材が欠けたり、清掃後に出てくる大量の汚れによってストレーナーや配管が詰まり、設備トラブルを起こしてしまうこともありますので、充填材を含めた冷却塔清掃は専門業者に依頼されることをお勧めいたします。

スケールの化学洗浄

カルシウム系のスケールの場合、塩酸主体の洗浄液で比較的簡単に洗い流せますが、シリカ系のスケールの場合、非常に硬質で、化学洗浄は容易ではありません。また、強力な化学洗浄液を使用しますので、設備の腐食を引き起こす可能性があり、洗浄作業によるスケールの除去はリスクが伴います。

また、洗浄後の廃液は、産業廃棄物として処分が必要となり廃棄コストが掛かります。

水処理の計画

まず、九州に新しく工場を建設される際は、建設地の水質を把握しましょう。水質によって、かかるコストが変わってくるため、事業計画に重要な行動となります。水処理の方法として、水の軟水化、水処理薬剤の添加などがあり、こういった対策を取らなければ、九州の水質だとスケール障害は避けられません。

軟水化

シリカ系スケールは化合物であるため、シリカ単体ではスケール形成はしません。そのため、シリカ以外の物質を水から除去することで、シリカ系スケールを防ぐことができます。その一つが、水の軟水化です。軟水装置によって、硬度分(カルシウム硬度、マグネシウム硬度)を除去し、シリカと結びつく成分を除去する方法です。ボイラー設備では、スケール障害を防ぐために軟水は必須です。同じ方法で、冷却水でもシリカスケールを防ぐことができます。

水処理薬剤の添加

水処理薬剤の添加によってスケールの元となる結晶を破壊し結晶同士の結びつきを防止します。

水処理薬剤の添加は効果的ですが、適切な水質管理を必要とします。水処理薬剤の添加量が少ないと効果が発揮されず、添加量が多すぎると金属の腐食に影響します。水の蒸発量は、季節、稼働率、設備負荷などによって変わるため、濃縮管理による適切な薬剤の添加が重要になります。

上記は水処理薬剤を使った場合の冷却水の水質管理基準値です。

基準値内で冷却水の水質管理を行い、下記表(11月の水質分析の結果)の補給水の値を基準とし、水処理薬剤を添加していきます。

水はポータブルの測定器で電気伝導率を測定できるため、一般的に電気伝導率を測定した値をもとに濃縮管理を行います。

基準値をみると電気伝導率が200mS/mまで濃縮を上げることができますが、

福岡地区の補給水を例にすると、

基準値電気伝導率 200mS/m ÷ 福岡地区補給水電気伝導率 19mS/m ≒ 濃縮倍率 10.5 (倍)

と、電気伝導率の基準値だけ見ると、10.5倍濃縮まで上げらるように見えます。しかし、九州の水質はシリカの含有量が多いため、シリカスケールを考慮し濃縮の上限値を計算すると、

基準値シリカ 150 ÷ 福岡地区補給水シリカ 39 ≒ 3.84(倍)

シリカのスケールを防ぐには、3.84倍までしか濃縮を上げられず、結果的に電気伝導率も、

福岡地区補給水電気伝導率 19mS/m × 3.84(倍) = 73mS/m

となり、電気伝導率は73mS/m以下での水質管理が求められます。

同じように他3地区を計算すると、熊本地区(59mS/m以下)、大分地区(53mS/m以下)、佐賀地区(62mS/m以下)となり、どの地域でも濃縮を高くすることが出来ないため、水の入替が多い分、水処理薬剤の添加量も増え薬剤コストが掛かります。

まとめ

九州の水質は不純物が多く、工場の設備や機械で冷却水として使用すると、九州以外の地域よりスケールが生成しやすいです。そのため、新しく工場を建設される際は建設地の水質を把握して、水処理にどれだけのコストが掛かるかを事業計画に組み込んでください。後々、スケール障害などで設備が頻繁にストップすれば、生産性の低下や障害改善に掛かるコストなどのデメリットが発生し、当初の事業計画から大きく逸れてしまいます。水処理の導入にもコストは掛かりますが、生産性の低下や障害改善に掛かるコストなどのデメリットを抑制しますので、トータルコストパフォーマンスはより良いものを発揮します。生産性の低下や障害改善に掛かるコストは、まだ発生していない段階では目に見えないものですので、重要性を感じにくいですが、設備が永く安定稼働するために事前に対策をとりましょう。

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