冷却塔1台の清掃から始まった、工場全体の冷却水・ブライン管理
新規のお客様から、冷却塔(クーリングタワ)の水質に関するお問い合わせをいただきました。
冷却水のトラブルに困られており、改善策を検討されているとのことでした。
地元の企業ではなかったため、最初に社名を伺ったときは、どのような工場なのか分かりませんでした。
インターネットで調べてみると、かなり規模の大きな工場でした。地図で確認すると、敷地内には数多くの冷却塔が設置されており、その規模に驚きました。
実際に工場を訪問すると、私たちの生活にも身近な飲料を製造されている工場でした。
製造ラインで製品温度の異常が発生
詳しくお話を伺うと、製造ラインで製品温度の異常が発生しており、原因が分からず困られていました。
製品の温度管理は、飲料工場にとって品質を左右する重要な工程です。
このトラブルは、現場だけの問題ではありませんでした。社内の重要な改善事案として扱われ、工場の担当者だけでなく、経営層も関与するほど大きな問題として捉えられていました。
原因を特定できないままでは、同じトラブルが繰り返される可能性があります。製造ロスやライン停止にもつながるため、早急な原因究明と改善が求められていました。
工場内には、冷却塔だけでなく複数のチラーが設置されていました。冷却水やブライン液を使用している製造ラインも多く、設備構成は非常に複雑でした。
特に問題となっていたのが、密閉式冷却塔につながる冷却水系統のスケール障害です。
一般的に、密閉配管内を流れる冷却水は、開放式冷却塔のように蒸発による濃縮が起こりにくいため、スケール障害は発生しにくいと考えられます。
しかし、密閉系統につながっているシェル&チューブ式熱交換器には、実際に多くの付着物が発生していました。
熱交換器は定期的に酸洗浄されていたため、洗浄後の分析報告書を確認させていただきました。
付着物から多く検出されていたのは、鉄、銅、亜鉛などの金属成分でした。その次に多かったのがシリカです。
密閉系統でも毎日水が入れ替わっていた
当初は「密閉系統」と聞いていたため、冷却水の入れ替わりは、ほとんどないものと考えていました。
ところが、製造プロセスを詳しく確認すると、この系統では1日に1回、保有水量の約10分の1に相当する水が入れ替わる仕組みになっていました。
補給水には井戸水が使用されていました。
水質を確認すると、井戸水にはカルシウム、マグネシウム、シリカなど、スケールの原因となる成分が多く含まれていました。
さらに、系内の配管や熱交換器などから、腐食によって鉄、銅、亜鉛などの金属成分が溶出している可能性もありました。
分析結果や設備の状況から、これらの金属成分がシリカやカルシウムなどと結びつき、熱交換器に付着しているのではないかと考えました。
つまり、密閉系統であっても、毎日一定量の井戸水が入れ替わることで、スケールの原因となる成分が継続的に持ち込まれていたのです。
改善策を説明しても、すぐには伝わらなかった
水の仕組みやスケールが発生する原因を知っていただくため、トラブルの原因と改善策を資料にまとめ、プレゼン形式でご説明しました。
しかし、水のメカニズムは目に見えにくく、薬剤を添加した場合の効果も、すぐに確認できるものではありません。
そのため、最初の説明だけでは、水質管理をご依頼いただくことにはなりませんでした。
お客様としても、
「本当に効果があるのか」
「費用をかけても、改善しなかったらどうしよう」
という不安があったのだと思います。
これは、このお客様に限ったことではありません。
水処理は、設備の修理や部品交換とは異なり、効果が目に見えにくいものです。そのため、多くのお客様が同じような不安を感じられます。
最初の仕事は冷却塔1台の清掃
これまで工場では、専門業者による定期的な水質管理は行われていませんでした。
冷却塔の清掃も、基本的には自社で対応されていました。
しかし、自社でできる作業には限界があります。
下部水槽にたまった汚れを排出する程度の清掃しかできず、冷却塔内部の充填材には、スケールや汚れによる目詰まりが発生していました。
今後は、工場内にある冷却塔の清掃を外部へ依頼したいとのことで、まずは見積書を提出しました。
その後、最初の1台をご依頼いただくことになりました。
充填材には、スケールや汚れが大量に付着していました。
私たちは普段どおり、充填材を取り外し、内部に付着したスケールや汚れをできる限り除去しました。
表面だけをきれいにするのではなく、冷却塔本来の能力を回復させることを目的とした清掃です。
作業中、お客様は最初から最後まで、私たちの清掃作業を熱心に見られていました。
あまりにも熱心に見られていたため、
「作業方法を覚えて、次回から自分たちで清掃されるのではないか」
と思ったほどでした。
清掃方法によって仕上がりが大きく異なる
清掃が終わると、冷却塔が想像以上にきれいになったことに、お客様は大変驚かれていました。
そこで初めて知ったのですが、近くには同じ能力の冷却塔がもう1台あり、そちらは数週間前に別の業者が清掃していました。
その業者からは、清掃後の能力を維持するため、水質管理の提案も受けていたそうです。
お客様は、これまでにも費用をかけて、専門業者へ冷却塔の清掃を依頼されていました。
しかし、清掃後も冷却能力が大きく回復した実感がなく、
「業者に清掃を依頼しても、冷却塔の能力はそれほど変わらない」
と思われていたようです。
そうした経験もあり、清掃を依頼する際には、できるだけ費用を抑えられる業者を探されていました。
ところが、数週間前に清掃された冷却塔の充填材を確認すると、表面は洗浄されていましたが、充填材の奥にはスケールが多く残っていました。
冷却塔の内部にも、洗い落としたスケールや汚れが残っていました。
清掃方法や作業範囲が異なっていたため、充填材内部の目詰まりまでは十分に解消されておらず、冷却能力の回復には至っていない状態でした。
一方、私たちは充填材を取り外し、表面だけでなく、内部に付着したスケールまで除去しました。

お客様が作業を最初から最後まで熱心に見られていたのは、それぞれの清掃方法や仕上がりの違いを確認されていたからでした。
これまで清掃を依頼しても能力が回復しなかったのは、冷却塔の清掃そのものに効果がなかったからではありません。
冷却能力の回復を目的とした清掃が、十分に行われていなかったのです。
この清掃品質の違いを評価していただき、その後、工場内にあるすべての冷却塔について、能力回復を目的とした清掃をご依頼いただくことになりました。
台数が多かったため、製造ラインを停止できる時期に合わせ、約1年をかけて順番に清掃を実施しました。
清掃前:充填材の内部までスケールが付着し、水と空気が接触しにくい状態

清掃後:充填材内部の流路を確保し、通風と散水の状態を改善

冷却塔の清掃が電力削減につながった
工場内にある冷却塔の多くは、水冷式チラーの冷却に使用されていました。
冷却塔の充填材に目詰まりが発生すると、水と空気が十分に接触できなくなり、冷却能力が低下します。
冷却塔の能力が低下すれば、チラーの凝縮器へ送られる冷却水の温度も高くなります。
その結果、チラーは冷媒を凝縮させるために、より多くの電力を必要とします。
清掃によって冷却塔の能力が回復すると、チラーの凝縮器が効率よく冷やされるようになりました。
その後の運転データを確認したところ、チラーの消費電力が低下していることも確認されました。
ここでお客様は、知らないうちに冷却塔の能力が低下し、その影響で余分な電力コストが発生していたことに気づかれました。
冷却塔の水質を適切に管理し、充填材へのスケール付着や目詰まりを防ぐことは、設備トラブルを防ぐだけではありません。
電気代の削減や、チラーをはじめとする設備の延命にもつながります。
重要工程に残された熱交換器の問題
冷却塔の清掃は進みましたが、密閉系統の熱交換器に付着するスケールの問題は残っていました。
この熱交換器は、工場で製造している飲料製品を、充填前に冷却する重要な工程で使用されていました。
熱交換器にスケールが付着して伝熱性能が低下すると、製品を規定の温度まで冷却できなくなります。
この熱交換器の伝熱性能の低下が、当初問題となっていた製品温度の異常を引き起こした主な要因の一つではないかと考えました。
飲料工場や食品工場では、製品の温度管理が非常に重要です。
温度が基準から外れると、製造ラインを停止したり、製品を廃棄したりする可能性があり、大きな製造ロスにつながります。
当時は、熱交換器の伝熱性能が低下した段階で、酸などの洗浄液を使用して定期的に洗浄する方法が検討されていました。
しかし、この方法は、スケールが付着してから除去する事後保全です。
定期的に洗浄すれば、一時的に能力は回復します。
しかし、スケールの発生原因を解決しない限り、再び同じ問題が起こります。
私たちは、スケールの原因となっている可能性が高い、鉄、銅、亜鉛などの金属腐食を抑えることが重要だと考えました。
配管や熱交換器の腐食を抑え、金属成分の溶出を少なくすることで、スケールの生成や付着も抑えられる可能性があります。
テスト機を使って効果を実証
説明だけでは、お客様の不安を解消できません。
そこで、当社が保有している薬注装置のテスト機を設置し、実際の密閉系統へ水処理薬剤を添加して、防食効果とスケール抑制効果を検証することにしました。
まず、薬剤を添加する前と後で、水質の変化を確認しました。
さらに、冷却水の中に金属製のテストピースを約1か月間浸漬し、腐食の状態を比較しました。
薬剤添加前:テストピースの表面全体に腐食が発生

薬剤添加後:表面の腐食が抑えられ、腐食速度も大きく低下

薬剤添加前のテストピースは、表面全体に腐食が発生していました。
一方、薬剤添加後のテストピースでは、腐食が明らかに抑えられていました。
目視による比較だけでなく、テストピースの重量を測定し、腐食による重量の減少量と腐食速度を算出しました。
その結果、薬剤添加後は、腐食減量と腐食速度を約10分の1まで抑えられることが確認できました。
スケール抑制効果もラボ試験で検証
スケールは、短期間では付着の有無を判断しにくいことがあります。
そこで、薬剤メーカーにも協力を依頼し、ラボ試験を実施しました。
試験では、加熱したテストピースに実際の冷却水を接触させ、水を循環させながら、熱交換器内部でスケールが付着する状態を再現しました。
薬剤を添加していない場合と、添加した場合を比較した結果、水処理薬剤によってスケールの付着が抑えられることも確認できました。
こうしたテスト結果を資料にまとめました。
- 製品温度の異常が発生した原因
- 熱交換器に付着していた成分
- 配管や熱交換器の腐食状況
- 水処理薬剤による防食効果
- スケールの抑制効果
- 今後の冷却水の運用方法
これらを、あらためてプレゼン形式でご説明しました。
すると、その場で、工場内にあるすべての冷却塔と冷却水系統の水質管理をご依頼いただくことになりました。
数十台の薬注装置を短期間で設置
当社でも、一度に数十台の薬注装置を設置する機会は多くありません。
通常は、まず1台で効果を確認していただき、その後、同じ工場内の別設備や、ほかの工場へ展開していくことが多いからです。
今回は、テスト結果を評価していただき、短期間で工場全体へ展開することになりました。
数十台分の薬注装置を準備し、設置することは、当社にとっても貴重な経験となりました。

ブライン液でも腐食が進んでいた
冷却塔や冷却水系統の管理を始めると、工場内の設備構成が少しずつ見えるようになってきました。
その中で、チラーに使用されているブライン液でも、腐食による障害が起きている可能性があることが分かり、こちらも調査をご依頼いただきました。
ブライン液には、主にエチレングリコール系とプロピレングリコール系があります。
食品や飲料に関係する設備では、安全性を考慮して、プロピレングリコール系のブライン液が使用されることがあります。
工場で使用されていたプロピレングリコール系のブライン液は、本来きれいなピンク色をしていました。
しかし、採取したブライン液は茶色く濁っていました。
水質分析を行ったところ、高濃度の鉄が検出され、銅や亜鉛も確認されました。
系内の配管や熱交換器などで、腐食が進行していることが懸念される状態でした。
さらにpHを測定すると、本来はアルカリ性に保たれているブライン液が、pH5程度まで低下していました。
ブライン液が酸性化し、金属を腐食させやすい状態になっていたのです。
正常な状態:透明感のあるピンク色

劣化した状態:腐食生成物の影響により茶色く濁った状態

入れたままではブライン液の劣化に気づけない
これまで、ブライン濃度の確認や定期的な分析は行われていませんでした。
一度ブライン液を入れた後は、基本的にそのまま使用されており、気づかないうちにpHが低下していました。
この状態で使用を続ければ、配管や熱交換器の腐食が進行します。
設備の寿命を縮めるだけでなく、漏れや詰まりなど、突然の設備トラブルにつながる可能性もあります。
そのため、今回はブライン液の全量入れ替えをご提案しました。
系内のブライン保有量は数十トンに及び、入れ替えには大きな予算と工期が必要でした。
日頃からブライン液の濃度、pH、鉄分などを確認していれば、劣化の兆候を早い段階で把握できます。
早期に気づくことができれば、pHの調整や一部入れ替えによって、全量交換を先延ばしにできる場合もあります。
また、急な出費ではなく、数年後の交換を見据えて、計画的に予算を組むことも可能になります。
現在は工場全体の水を管理
現在は、工場内の冷却水とブライン液の管理を、まとめて当社へお任せいただいています。
毎月工場を訪問し、冷却水やブライン液を採取して、水質の状態を確認しています。
主な点検内容は、次のとおりです。
- 冷却水の水質分析
- 水処理薬剤の濃度確認
- ブライン液の濃度確認
- ブライン液のpH確認
- 冷却塔の運転状態の確認
- 自動ブロー装置の点検
- 薬注装置の点検
- 配管や設備の腐食、漏れ、異常の確認
水質の数値だけを見るのではありません。
冷却塔、チラー、熱交換器、自動ブロー装置、薬注装置などを含め、設備全体を確認しています。
信頼して任せられる業者がいなかった
実は、お客様がこれまで水質管理をまったく検討されていなかったわけではありません。
冷却塔の清掃や水処理薬剤について、複数の業者から提案を受けたことがあったそうです。
しかし、
「薬剤の説明ばかりで、自分たちにどのようなメリットがあるのか分からなかった」
「設備全体を理解して、信頼して任せられる業者がいなかった」
と言われました。
冷却塔が故障すれば冷却塔メーカーへ依頼し、チラーが故障すればチラーメーカーや修理業者へ依頼する。
一方で、冷却水やブライン液の管理は手つかずの状態でした。
設備ごとに依頼先が分かれており、冷却塔、チラー、熱交換器、水質を一貫して見られる業者がいなかったのです。
今回、冷却塔1台の清掃から始まり、冷却水、熱交換器、チラー、ブライン液まで調査したことで、設備全体を含めた管理体制を評価していただきました。
お客様からは、
「冷却塔からチラー、冷却水、ブライン液まで、幅広い知識を持つプロに任せるべきだと分かった」
と言っていただきました。
水質管理の目的は薬剤を販売することではない
水質管理の目的は、水処理薬剤を販売することではありません。
冷却塔や熱交換器の能力を維持し、余分な電力の使用を防ぎ、設備の寿命を延ばすことです。
さらに、製品温度の異常や製造ラインの停止といったトラブルを防ぎ、工場を安定して稼働させることが、本当の目的です。
今回のお客様とのお付き合いも、最初から水質管理をお任せいただいたわけではありません。
始まりは、冷却塔1台の清掃でした。
その1台を丁寧に清掃し、冷却能力を回復させたことで、私たちの仕事を評価していただきました。
その後、テスト機を使用して腐食やスケールの抑制効果を数値で示し、少しずつ信頼を積み重ねていきました。
言葉だけで「効果があります」と伝えるのではなく、実際の設備で検証し、結果を見ていただく。
そして、薬剤だけを提案するのではなく、設備全体を見ながら、お客様にとって最も良い方法を考える。
これからも、冷却塔、チラー、冷却水、ブライン液を総合的に管理し、工場設備の安定稼働を支えていきたいと思います。
冷却設備のトラブルでお困りの方へ
冷却塔を清掃しても冷え方が改善しない場合や、熱交換器にスケールが繰り返し付着する場合は、設備だけでなく、水質にも原因が隠れている可能性があります。
また、次のような症状にも注意が必要です。
- 以前よりチラーの電力使用量が増えている
- 冷却水やブライン液が茶色く濁っている
- ブライン液のpHや濃度を長期間測定していない
- 熱交換器を洗浄しても、短期間で再び能力が低下する
- 冷却塔の充填材にスケールや汚れが付着している
- 冷却設備の管理を、複数の業者へ個別に依頼している
当社では、水質分析だけでなく、冷却塔、チラー、熱交換器、ブライン液を含め、設備全体の状態を確認しています。
原因の分からない冷却トラブルや、冷却設備の管理方法でお困りの際は、ご相談ください。
記事を書いた人


